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| 2022.4.15 | No.08 |

本レターは、ワシントンDCの国立アジア美術館(フリーア美術館、アーサー・M・サックラー・ギャラリー)のイベントに参加いただいた方、メディアの方、当館の日本プロジェクトの関係者様にお送りしています。「国立アジア美術館」という名称は、従来の「フリーア美術館」と「アーサー・M・サックラー・ギャラリー(サックラー美術館)」を統合して訴求するために新たに設けたものです。従来のふたつの美術館の名称は変わりません。

ジャパンチーム学芸員より皆様へ

歌川国貞『英雄見立三国志』The Pearl and Seymour Moskowitz Collection, S2021.5.539a-c


ここワシントンでは、桜の散り始めと同時に、以前とほとんど変わりない時間が戻ってきたようです。コロナウイルスの関係で週に3日のみだった開館日が4日になり、そして今は6日になりました。
そしてふたつの日本美術の展覧会が始まっています。「マインド・オーバー・マター:日本の中世における禅美術」展と、「無頼漢と伊達男たち」展は、それぞれ大きく異なったテーマでありながら、意外なところで重なりあってもいます。「マインド・オーバー・マター」展は、フリーア美術館が所蔵する禅関係の作品の全容を紹介するもので、開館以来初めての試みです。「無頼漢と伊達男たち」展は、江戸時代の版画や芝居に登場する社会の周辺的な人々の存在と、彼らの物語が現在のアートに与え続けているパワーに焦点を当てています。
どちらの展覧会も、異なる時代の人々が、美術の中に見出した回復力とインスピレーションを表現しており、美術がいつも私たちを励まし、力を与えてくれるものだということを、気づかせてくれます。
皆さまが美しい春の季節を楽しんで過ごされますように!

フランク・フェルテンズ/キット・ブルックス/ソル・ジュン
国立アジア美術館 日本美術担当学芸員
フリーア美術館で「マインド・オーバー・マター:
日本の中世における禅美術」展オープン!

雪村周継『寿老人像』(部分)Purchase — Harold P. Stern Memorial Fund and Friends of the Freer and Sackler Galleries in appreciation of Peter Kimmelman and his exemplary service to the Galleries as chair of the Board of Trustees (2015-2019), F2015.6a-d


2月26日、フリーア美術館日本ギャラリーで「マインド・オーバー・マター〜中世日本における禅美術〜 Mind Over Matter: Zen in Medieval Japan」がオープンしました。フランク・フェルテンズ学芸員と、ハーバード大学のユキオ・リピット教授との共同キュレーションで、1923 年のフリーア美術館設立以来、当館が所蔵する中世日本の禅宗画、陶器、漆器といった禅関連の作品を包括的に展示する初めての展覧会となります。
日本や中国の貴重な作品を中心に、広範な中世禅画の収蔵品を通して中世日本の禅宗寺院の世界を明らかにし、5 世紀頃に中国で誕生した禅が、朝鮮半島、日本、そして米国へと伝播した様を紹介します。本展では、来館者以外の皆さまにも広くお楽しみいただけるよう、オンラインプログラムにも力を入れています。
禅画の制作過程を視覚的に再現したアニメーション
本展では、雪村筆「寿老人像」が初めて展示されますが、こうした墨一色の簡潔な線で表現される禅画がどのように描かれたのかをアニメーションでご覧いただけます。
https://asia.si.edu/exhibition/ink-painting-animation/
オンライン・オブジェクト・ギャラリー
展示作品のほぼすべてを、オンライン上の高精細画像でご鑑賞いただけます。作品を拡大して、細部までお楽しみください!
https://asia.si.edu/exhibition/mind-over-matter-object-gallery/
オーディオプログラム「ヴォイス・オブ・ゼン」
市民との協働により、作品に対する多様な視点を示すプログラムとして、ワシントンDC在住の高校生、箏曲家の黒澤有美さん、曹洞宗の禅僧・身知隱竜師による展示作品へのコメントを音声でご紹介しています。宗淵の墨画、一休宗純の書、室町時代の茶碗の3作品を選び、作品上で点滅する円をクリックしてみてください(英語のみ)。
https://asia.si.edu/interactives/mind-over-matter/
日本とのコラボレーション
「寿老人像」は、茨城県立歴史館が所蔵する「 猿猴図 」 二幅と共に三幅対 であったと考えられています。今回、当館、東京藝術大学 、茨城 県立歴史 館との三者協働により、「寿老人像」と「 猿猴図 」の 現状再現 クローン文化財 と当初復元(スーパークローン文化財) を制作しました。三者が所有し、それぞれが展示や研究で活用していく予定です 。

雪村周継『猿猴図』 二幅 茨城県立歴史館

サックラー・ギャラリーで「無頼漢と伊達男たち」展オープン!

豊原国周『神明恵和合取組』The Pearl and Seymour Moskowitz Collection, S2021.5.339a-c
(右から)水引清五郎☆九龍山 市川左団治、鳶者長次郎 市川小団治、四ツ車大八 中村芝翫、鳶方浜松丁辰五郎 尾上菊五郎、鳶者亀右エ門 尾上松助、鳶者冨士松 坂東家橘、鳶者国松 尾上幸蔵


3月19日に、アーサー・M・サックラー・ギャラリーで、国立アジア美術館に寄贈されたパール&シーモア・モスコウィッツ・コレクションを初めて紹介する「無頼漢と伊達男たち:Underdogs and Antiheroes」展がオープンしました。
モスコヴィッツ・コレクションの日本版画は、近世日本社会の片隅に生きた人々の魅力的な物語や都市伝説に焦点を当てています。芝居、文学、浮世絵をはじめとする視覚美術といった分野において、当時の人々を魅了したのは、社会規範から逸脱した無頼漢と伊達男たちでした。金持ちから奪った金を庶民に配る義賊、華やかな彫り物を背負った勇猛で危険を顧みない火消したち、義侠心にあふれた殺人者・団七九郎兵衛といった、いわば社会的不適合者たちの物語に、庶民は喝采しました。日々の生活に苦しむ庶民にとってはむしろ彼らのほうが、道徳的な規範でもあったのです。
鮮やかな色彩の浮世絵で、無頼漢と伊達男たちの圧倒的な魅力を紹介します。オブジェクトギャラリーでお楽しみください!
https://asia.si.edu/exhibition/underdogs-and-antiheroes-object-gallery/
展覧会に至るまで -6- 2022 春

当館では日本美術をはじめアジア各国の美術を紹介する多様な展示を展開していますが、作品を皆さまに観ていただくまでに実に多くの手順を踏んでいます。アメリカの美術館の一つの例として、どのように展覧会が実現されるのかを連載でご紹介しています。

正式に承認された展覧会で展示候補に挙げられている作品は、保存科学修復部東洋絵画修理室の職員によって現状調査 (condition check) が行われ、顔料剝落、裏打ち紙の浮き離れ、折れ・しわ・染み・虫損などの有無や付属品 ―例えば掛軸の紐・軸先や屏風の紙蝶番― の状態などを確認します。日本絵画は耐光性が低く、開閉の度に顔料の剝落などが起きて痛むため、当館では展覧後4年半は一般公開しないことと規定されており、保管には万全を期しています。こうした調査時には詳細な記録を残し、より良い状態で後世へ伝えるべく努めています。

さて調査後、必要があれば展示までに対処修理を施しますが、鑑賞に堪えられない程の痛みや劣化が進行した作品は解体修理を行います。一方、企画を担当した学芸員は、調査結果に基づき展示候補作品を再検討し、必要であれば代替作品を考え、最終的な作品リストを作成します。

弊館東洋絵画修理室の修理技術者は、歴史・美術的価値ある収蔵品を次世代へ継承する仲介者のような立場です。日本絵画の保存修理を通して、アメリカのみならず全世界へ日本文化の豊かさや面白さを伝えることができるのは、当館が東洋美術を専門とする唯一の国立美術館であるからこそでしょう。日々、日米親交・相互理解の一助となるべく、仕事に励んでいます。
トピックス
◆ここワシントンDCでは、3年ぶりとなる全米桜祭りが開催中です。
1912年、タフト大統領夫人と珍田駐米日本大使夫人によって、最初の2本がウエスト・ポトマック公園に植えられて以来、桜は日米の友好のシンボルとして親しまれてきました。
現在ワシントンDCのポトマック川やタイダルベイスンなどの中心部はもちろんのこと、街なかでも多くの桜が見られるなか、多様な日本関連イベントやプログラムが開催されます。
コロナ禍のため、過去2年間は中止またはオンライン開催のみでしたが、桜の植樹から110年目となる節目の今年に桜祭りが無事開催されたことを、当館スタッフ一同とても嬉しく思っています。
◆4月12日、ソル・ジュン学芸員による、日本の金属工芸を紹介するオンラインイベントが開催されました。
国立アジア美術館が新たに収蔵する予定のシャーリー・ジョンソンコレクションから、近現代の作品を取り上げて紹介しています。ジョンソン氏は著名な弁護士で、当館の理事も務めました。日本の金属工芸の技術は2000年以上にわたる文化交流と内部革新によって発展してきました。それらから生み出された伝統的な加工技術は、現代におけるアーティストたちに受け継がれ、新たなデザインを生み出し続けています。同コレクションには人間国宝の大角幸枝さんの作品も含まれています。

大角幸枝 銀打出花器『波穂』Bequest of Shirley Z. Johnson
第五五回日本伝統工芸展(2008)、第一七回岡田茂吉賞展 MOA美術館賞(2010)

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「国立アジア美術館」という名称は、従来の「フリーア美術館」と「アーサー・M・サックラー・ギャラリー」を統合して訴求するために新たに設けたものです。従来のふたつの美術館の名称は変わりません。

 
発行元:国立アジア美術館広報東京事務局
〒123-0842 東京都千代田区神田神保町2-13 神保町MFビル701
TEL: 03-3237-3124 E-mail: freer@annex-inc.jp
 
アメリカ現地所在地
Freer Gallery of Art
Jefferson Drive at 12th Street SW, Washington, DC 20013-7012
Arthur M. Sackler Gallery
1050 Independence Ave SW, Washington, DC 20013-7012

https://asia.si.edu/
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©National Museum of Asian Art