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| 2021.10.8 | No.06 |

本レターは、ワシントンDCの国立アジア美術館(フリーア美術館、アーサー・M・サックラー・ギャラリー)のイベントに参加いただいた方、メディアの方、当館の日本プロジェクトの関係者様にお送りしています。「国立アジア美術館」という名称は、従来の「フリーア美術館」と「アーサー・M・サックラー・ギャラリー(サックラー美術館)」を統合して訴求するために新たに設けたものです。従来のふたつの美術館の名称は変わりません。

ジャパンチーム学芸員より皆様へ

池田孤邨『紅葉山景図屛風』Purchase — Harold P. Stern Memorial Fund and funds provided by the Friends of the Freer and Sackler Galleries in appreciation of James W. Lintott and his exemplary service to the Galleries as chair of the Board of Trustees (2011-2015), F2014.7.1-2


気持ちのいい秋を迎えたばかりのワシントンよりご挨拶申し上げます。
日が短くなり、樹々の葉が秋色に変わっていくこの季節に、ご自宅の椅子からゆったりと楽しんでいただける当館のオンラインプログラムにご招待したいと思います。
パンデミック期間中、フリーア美術館とサックラー・ギャラリーは、美術館の壁を越えて私たちの活動をホームオフィスやご自宅の居間にお届けする活動の拡大に努めてきました(美術館はパンデミックによる休館を経て7月16日から開館しています)。
慶応義塾大学の佐々木孝浩教授と3回のシリーズで開催した、日本の希少な絵入り版本に関するワークショップはおすすめです。江戸時代における出版文化のマジックともいえる視覚的表現や卓越した技術をご紹介しています。佐々木教授のレクチャーと併せて、プルヴェラー・コレクションのサイトも訪れてみられてはいかがでしょう。当館の絵本コレクションで、全2,200ページ以上を、あなたの指先からデジタルでご覧いただけます。

また、不気味さを楽しむハロウィーン・シーズンのプログラムとして、キット・ブルックス学芸員による日本の木版画における「変身」をテーマにしたトークが日本時間の10月13日の深夜1時から開催されます。秋の深夜に、19世紀のアーティストによるミステリアスな世界を覗かれてみてはいかがでしょうか。

皆様が、お元気に、素晴らしい秋を楽しまれますように!

フランク・フェルテンズ/キット・ブルックス
国立アジア美術館 日本美術担当学芸員
江戸の絵入り絵本 連続シリーズ(全3回)アーカイブ動画のご案内

慶応義塾大学・同大付属研究所斯道文庫の佐々木孝浩教授が豊かな絵入り版本の世界をご案内くださいます(レクチャーは日本語です)。

第1回 絵入り版本の歴史と装丁 https://youtu.be/9RnftE9LYxo
第2回 絵入り版本の確認方法 https://youtu.be/PVhCilxV6lk
第3回 絵入り版本と政治・社会の関係 https://youtu.be/UUn-pypYAsw
展覧会に至るまで -4- 2021 秋

当館では日本美術をはじめアジア各国の芸術を紹介する多様な展示を展開していますが、作品を皆さまに観ていただくまでに実に多くの手順を踏んでいます。アメリカの美術館の一つの例として、どのように展覧会が実現されるのかを連載でご紹介しています。

学芸部内で検討を重ね練り上げた展示企画案は、展示部へ回付されます。
展示部は、企画案の協議から展覧会終結までの全工程をモニターし、統率していく部門です。企画案は独創的な着想・斬新な切り口であるかが審議され、館長の同意を得て、展示企画として正式に承認されます。展示部は、諸条件を考慮した上で、展示室を割り当て、開催期間を確定、予算を組み、工程表を作成し、各部門と連携を図りながら、途上(過程)で起きうるあらゆる問題・障壁に対処していきます。

他館から作品を借用する場合には合意書を列品管理室と、貸出条件に見合った展示ケースの制作はデザイン部と、展覧会図録は出版部と、展示内容に沿った一般向け公開講座は教育部と - しかしながら、各工程の締切日を厳守できるとは限らず、進捗の目安となる経過点(節目)の微調整を繰り返します。開催期間の変更は不可能と考えられており、展覧会を企画した学芸員の意向も踏まえて協働体制を維持し、予定通りに開幕できるように努めます。

展示部が全部門と共通認識を持つためには、情報交換・意思疎通が極めて重要です。また、夫々の国・美術館・研究者によって事情が異なりますので、異文化への理解と敬意も大切です。
展覧会は一つとして同じものはなく、常に新鮮で学ぶことが多く、刺激に満ちています。また、美術館の職員ほぼ全員と仕事をする機会を得られるのも、展示部ならではかもしれません。
フリーア美術館創立者の評伝
『日本美術の冒険者 チャールズ・ラング・フリーアの生涯』

共同通信、産経新聞読売新聞の書評で紹介されました。

◆執筆者の中野明さん ミニ・インタビュー

− フリーアという人物に対しての中野さんの印象を教えてください。
つかみにくく、不思議なひとだったような気がします。性格的にはたぶん控えめで慎重、そして生真面目。いっぽうで、行動的で、ビジネスでの交渉はタフで、それは絵画の購入の仕方にも反映されている。でも、購入にあたって価格を値切る場合でも理不尽な値切り方じゃなく理詰めで交渉していました。社交的とは言えないけど特定の友人、例えば日本人なら益田孝とは非常に深い親交がありました。フリーアはこういう人物だったね、とまとめるのが難しいという意味で、不思議なひとだと感じました。

− 国立アジア美術館は、日米の文化交流の拠点としての使命も担っていますが、フリーアは美術を通じてどのような交流や学びを目指したのだと思われますか?
本でも書いたのですが、フリーアはコレクションを通じて、「人類に共通する普遍的な美」、いわゆる「ユニバーサル・ビューティ」を提示したかったのではないでしょうか。それはおそらく、そうした美を目指して作品を作り続けたホイッスラーからの影響なのではとないかと思います。また、フリーアの盟友でもあるフェノロサは、書籍の中で世界共通の美が存在すると言っており、学問でそれを伝えようとしたと言えます。そしてフリーアは、美術作品の展示、観て美しいと皆が思う作品の展示によって、ユニバーサル・ビューティがあることを表現したかったではと感じています。3人が同じ目標に向かっていたのかな、と。

− ご執筆過程において中野さんにとって一番の発見だったことは何でしたでしょうか。
1907年の2回目の来日の際に、フリーアは大きな贋作事件・詐欺事件に巻き込まれますが、今回その様子が分かったことは大きな発見でした。フリーアの日記や手紙などがフリーア美術館でしっかりとデジタル化されていたことがこの発見につながりました。
小林文七、益田鈍翁の末弟の英作、加納鉄哉などの名前が事件に関する記述の中にあったのも驚きですし、ほかに記されている名前はみんな正体不明でどういう役割だったのかは分かっていません。ただフリーアが、騙されただけでなくするりと切り抜けて、贋作だけ戻して真作は持って帰ったというのはさすがというしかありません。わたしは、松島図屏風が絵の中に描かれている「誰が袖図屏風」は、この事件で得た作品ではないかと推測をしているのですが、さらなる詳細が今後明らかになったら面白いですね。

− 海外の美術館が日本の美術作品を有する意義についてお考えがあれば教えてください。
経済力も必要ではあるのですが、作品の価値が分かる人物であったフリーアが「普遍の美」を求めた収集を行う人物であったというのは、日本にとって本当にラッキーなことだったのではないでしょうか。当時の環境を考えると、フリーアが購入しなければ、日本の中で散逸してしまった作品も多かったと思います。例えば、大森貝塚を発見したことで著名なエドワード・モースは陶器や日本の民具の取集で知られています。そうした民具は日本では価値が失われて消えていきましたが、モースが持ち帰ったコレクションはピーボディ・エセックス博物館でしっかりと残っていて、明治を知る非常に重要な資料になっています。

− 美術館所蔵で、お好きな作品があれば教えてください。
今回調べていて一番興味を持ったのは、安土桃山〜江戸時代初期の初期浮世絵、いわゆる初期風俗画です。右隻の男性が織田信長だという伝承を持つ「藤花遊楽図屏風」、徳川家の紋である三つ葉葵の小袖を着ている女性がいる「室内遊楽図屏風」、彦根図屏風とおなじ配置の「風俗図屏風」、ほかにも「住吉神社祭礼図」、「花下遊楽図屏風」など、とにかく初期浮世絵であまり知られていない作品がありますね。フリーア美術館の初期浮世絵というだけでもひとつのテーマになるのではと思いました。
トピックス

複製画について考えるトークイベント「Reproducing Hokusai’s Masterpieces」が、10月29日(金)、日本時間の8時半より開催されます。

デジタルとリアルの境界はどこにあるのか?新しい技術を使って過去の作品を再現することで、私たちは何を失い、何を得るのでしょうか?
2019年、京都文化協会は「綴プロジェクト」の一環として、キヤノンと共同で、当館所蔵の北斎の肉筆画の高精細複製画13点を作成し、すみだ北斎美術館で、北斎のオリジナル作品と一緒に展示した特別展が開催されました。
京都文化協会の大久保謙志氏と当館のフランク・フェルテンズ学芸員が、先端技術がいかに美術に革命をもたらし、通常では不可能な文化的体験を可能にしているかを探ります。
 
こちらからお申込みいただけます。
https://asia.si.edu/events-overview/?trumbaEmbed=view%3Devent%26eventid%3D155822459
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「国立アジア美術館」という名称は、従来の「フリーア美術館」と「アーサー・M・サックラー・ギャラリー」を統合して訴求するために新たに設けたものです。従来のふたつの美術館の名称は変わりません。

 
発行元:国立アジア美術館広報東京事務局
〒123-0842 東京都千代田区神田神保町2-13 神保町MFビル701
TEL: 03-3237-3124 E-mail: freer@annex-inc.jp
 
アメリカ現地所在地
Freer Gallery of Art
Jefferson Drive at 12th Street SW, Washington, DC 20013-7012
Arthur M. Sackler Gallery
1050 Independence Ave SW, Washington, DC 20013-7012

https://asia.si.edu/
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